うちの上司がバカすぎて~栄養士編~

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こんにちは、元栄養士の羽田です。

最近、「店長がバカすぎて」を読んでたら、栄養士時代のバカ上司を思い出しました。

今ではすっかりいい思い出なので、人生の記録として、あの頃の記憶をしたためたいと思います。

NEW! 「残業美徳がバカすぎて」 を書きました

うちの上司がバカすぎて~栄養士編~

キレすぎ上司がバカすぎて

学生時代、大学の教授から、耳にタコができるレベルで聞かされていたことがある。

「栄養士界は、上司が厳しいのは当たり前だ。怒鳴られたり、泣かされたり、いびられたりは普通で、それを乗り越えてこそ1人前の栄養士になれる」

のだと…。

その話を聞いていた、まだ若かりし頃の私は、

「栄養士って、人間の底辺みたいな奴しかいないのか…」

と絶望感に打ちひしがれた。

しかし、実際に社会に出て分かったが、そんなことはない。

道徳心に満ちた優しい栄養士は沢山いた。

それに、もし自分が【上司】という立場になったときは、そのおかしな常識とやらは、絶対に覆そうと心に決めていた。

だから、学生におかしな固定観念を植え付けようとした大学教授は、正直とても重罪だし、たまに思い返しても「クソだな」と思ってしまう。

私たちがすぐに社会の荒波に挫折してしまわないように、あえてあんなことを言っていたのかもしれないが、そこらへんを考慮しても「クソだな」と思ってしまう。

とまぁ、その話はさておき、私がバカ上司と出会ったのは、23才の新人管理栄養士の頃であった。

厳しいと有名な病院に就職してしまった私は、初日から【地獄絵図】のような現場を目撃してしまう。

就職初日、新人研修を終えた私は、午前11時に栄養士室に帰還した。

厨房では、ちょうど調理師たちが栄養士に各担当した料理の【味見】をもってくる時間だった。

次々と、料理をもって上司の元に訪れる調理師たち。

その雰囲気ときたらまるで、「重罪人の裁判ですか?」と思わせる緊迫感だった。

味見する上司を固唾を飲んで見守る調理師たち。

そもそも、そのレシピを書き上げたのは、そこで厳かな雰囲気を醸し出してる上司だし、仮にその料理がまずかったとしても、責任の半分以上は上司にもあるのでは?と思ったのだが、ここの病院では、作った調理師が全ての非を負うシステムのようだった。

次々と味見に合格判定が出される。

しかし、その均衡を打ち破った料理が1つ…「味噌汁」だった!!

お世辞にも美しいとは思えない上司の顔が、瞬間湯沸かし器のように熱く赤くなる。

まるで悪霊に憑りつかれたかのようなぶっさいくな顔で

「まずい!!作り直し!!」

と怒鳴り、激高する。

すかさず厨房専用の白衣を身にまとい、上司はずかずかと厨房内を突き進む。

味噌汁が入った鍋を、まるで金剛力士像のように持ち上げ、それはそれはもう豪快に、全ての中身をシンクに葬り去ったのだ。

「こんなものはいらない!!!」

叫び過ぎだし、うるさいし、とにかく興奮する上司。

当時の私は、人生で初めての、その異様な光景に目が点になる。

そして同時に全てを悟ってしまった。

私の上司こそ、大学教授が言っていた【人間の底辺栄養士】だ。

そしてそんな人間の底辺を、見事に上司にしてしまった私の運勢は地に落ちたな…と。

大学教授のクソな話は、実話だったのだ。
なんかクソとか言ってごめんなさい。

学生時代にはなかった異様な光景に、私は脳の処理が追い付かない。

担当の調理師は、「ごめんなさい、ごめんなさい…」と涙目になりながら上司を追いかける。

いやこれ、パワハラやん。

と今なら冷静に分析できるが、あの頃の私は、ただその光景を見守ることしかできなかった。

全ての具材を失った味噌汁の代わりに作られた味噌汁は、それはもうとてつもなく質素なものだった。

栄養管理の意味…まるでなし。

と思いながらも、緊迫した空気感の中で作られた味噌汁は、涙の味しかしなかった。

ムダ残業がバカすぎて

世間では、【働き方改革】とかよく取り上げられていたが、うちの栄養課は改革どころか、【改悪】をたどる一方で、完全に時代に取り残されていた。

そのうちの1つが、【残業美徳】だった。

残業2~3時間にとどまらず、ひどい時は日付が変わってるなんてことも普通だった。

厄介なのが、上司が「帰っていい」と言わないと、部下の栄養士たちも永遠に居残りなのだ。

1度だけ、先輩栄養士が「用事があるので帰ります」と勇敢にバカ上司に立ち向かったが、
「は?誰がいいって言った?」
と、不細工面でにらみをきかせた姿は、1周回って、とても見事なパワハラぶりだった。

そんなバカ上司が残業中にすることといえば、まずは日中に終わらなかった仕事だ。

管理職ともなると、やることが多いというわけではなく、日中は会社の電話で見知らぬ誰かといつも会話を楽しんでいた。

その光景を見かけた当初は、こんなバカの相手をする奴は誰だろうと思ったこともあるし、仕事中にプライベートなことばかりする上司に憤りを感じてもいたが、怒っても現実は変わらないし、自分の体が毒されそうなので、もう【無】になるしかないと悟りを開いた次第だ。

というわけで、バカ上司は、残業後にいつもこの無駄な電話時間にすべきだった仕事をしていた。

その一方、日中に全ての仕事を終えた私たち部下がすることは、仕事をしているフリをして、バカ上司への恨み節を日記にしたためたり、裏紙でメモ用紙作成だった。

本来、残業代が発生するならしてはいけないことだが、残業代は出ない職場だったので、何をしても文句を言われる筋合いはないのだと、腐りながら裏紙を必死でカッターで割いていた。

世間では、同世代の女子たちがアフター5を楽しむ中、バカ上司の部下になってしまったばっかりに、せまい部屋に閉じ込められ、バカ上司と同じ空気を吸い、窒息しそうになりながら、大量のメモ用紙作成…。

学生の頃に思い描いた、仕事後は合コンで素敵な殿方との出会いを求めるなぞ、遠い夢物語である。

そんな不満を抱えながら迎えた夜の9時。

「よし、終わった!」

高らかに響くバカ上司の声に、私たちはすかさず帰宅準備をしだす。

しかし、すぐにバカが自分のパソコンに電源を入れた瞬間、たぐいまれなる絶望感で一気に空気が凍り付く…。

もしこの世に【法律】がなかったら、私は厨房の片隅にかけられている大しゃもじを、バカ上司の後頭部にフルスイングした罪で、前科者になっていたに違いない。

パソコンを立ち上げた上司がすることというと、次はネット通販だった。

「いや、家でやれや!!」

という全員の総立ちツッコミの念もはねのけ、バカ上司はお気に入りのバッグ通販サイトをサーフィンしだす。
本当、今すぐ海に沈めたい。

「ね~どの色が私に似合うかな~」

と、少しルンルンしているところが鼻についてたまらない。

検索ページが、ブランドコーナーでなく、訳ありセール品コーナーだったのは、「自分のことよく分かってるじゃん」とそこだけは感心した。

「これとかにあいそうー」

一刻も早く切り上げたい先輩が、棒読みで上司を誘導する。

沸き上がる殺意をよく抑えているなと、先輩にはいつも感心させられる。

「そうかな~でも、やっぱりこっちにしようかな」

聞いておいて、全く違う色のバッグを選ぶバカ上司に、御仏の心を持つ先輩の顔が若干歪んだものの、バカ上司が帰ろうと言ってくれれはそれでいいのだと、背中から伝わってくる。

「用事も終わったし、そろそろ帰ろうか~」

バカ上司がやっとそう言ったのは、仕事が終わってから6時間後の、午後11時のことだった。

今日も私たちは、バカ上司への恨み指数を、また1つ大幅更新する。

この世に本当に生霊があるならば、きっとバカ上司の肩には、数え切れないほどの生霊が乗っていると断言できる。

「日に日に嫌いになるわ…」
先輩がぽつりとつぶやく。

「私たちにとっては悪魔のような存在ですからね…」
私もつぶやき返す。

1週間後、私たちの無念を晴らすかのように、バカ上司のパソコンのネット環境は使用不可になったそうだ。

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